ひとつの芸術品のようなカフェ「かもめ舎」の誕生
2015年7月、かもめ舎は須賀川市大町にオープンした。須賀川の代表的な産業「赤瓦」を使用した屋根が印象的な古民家、赤褐色のレンガ塀、飾り気のない門構えに映える爽やかな水色のプレートが目印。ヴィンテージをこよなく愛するオーナーご夫婦が、閑静な住宅街にポツンと佇んでいた趣のあるこの建築物にひとめぼれをして、本場から遠く離れた須賀川の地で、北欧の雑貨を取り扱うカフェを開くことに決めた。
古き良き日本文化と北欧雑貨の融合
カフェ内の一角に設けられた雑貨販売のスペースには、オーナーである石井さんご夫婦がセレクトした雑貨たちが美しく並んでいる。当初はご夫婦が自らデンマークへ買い付けに行っていたほどのこだわりだ。「自分たちで行くとすごい物量になるんです(笑)店の営業もあるので、今は必要な時に北欧にいる知り合いのバイヤーさんと取引しています」と話すのは旦那様の幹士さんだ。カフェで使用している古道具や家財は知り合いの不動産屋さんに取り壊しになる物件の情報をもらい、持ち主に譲ってもらったもの。「古いものが好きなんです」と奥様の明子さんが嬉しそうに話す。替えのきかないものをいつまでも大切に、というご夫婦の思いから地道に収集してきた味わい深い日本式家財と北欧雑貨の組み合わせが、かもめ舎をさらに魅力的な空間へと演出している。
こだわりの逸品「aalto coffee」との出会い
ご夫婦が京都で生活していた頃に出会ったのが、カフェで提供しているaalto coffee(アアルトコーヒー)だ。香り高く飲みやすい豆を気に入った明子さんが毎日飲んでいて、自分のカフェでどうしても扱いたいという思いを持つようになった。「aalto coffeeのオーナーさんが徳島県にいらして、直接問い合わせをして店で使わせてほしいとお願いしました」とかもめ舎に取り込んだ経緯を話してくれた明子さん。aalto coffeeはカフェを訪れる多くの方から評判が高く、体に優しいフードメニューやインスタ映え必至のスイーツメニューと並ぶ人気メニューのひとつとなっている。
新たな仲間を迎え、さらに進化し続けるかもめ舎
2018年秋、店のコンセプトに大きな変化があった。地元で採れる農産物を改めて見つめ直し、質の高いオーガニック素材を使用した2種類のプレートランチの提供を始めた。その背景には、石井さんご夫婦とある人物が新たな縁を結んだことにあった。「知り合いの腕利きのシェフの方をうちに招くことができました。選ぶ素材や作る物に対して一切妥協しない意識の高い方なんです。うちで使用している野菜は、須賀川市内や県内の農家さんを中心に仕入れているものです。メニューは固定せず、その季節の旬の物を使っていて、(メニューを)変えるタイミングはシェフとよく相談して決めます」と語る幹士さんの表情からは、「同じ志しを持つプロ」として新しく迎えたシェフへ寄せる厚い信頼が垣間見えた。
一度離れたからこそ分かる地元「須賀川」の良さ
穏やかなご夫婦が、かもめ舎を創業するまでには様々な苦難があった。須賀川市出身の幹士さんは、脱サラをして別の場所で飲食店を営んでいたが、8年前の3.11で家族とともに被災した。その当時、生まれたばかりの我が子の安全を第一に考えた結果、店を手放して京都へ避難することに決めた。慣れ親しんだ故郷を離れ、異郷の地で生活するのは想像以上に大変だった。それでも、京都で過ごした3年の間に、石井さんご夫婦が出会ったもの、肌で感じた文化が現在のかもめ舎を生み出す土台となった。一度離れたからこそ気づくことができた須賀川の良さ、福島県の農産物の素晴らしさを、かもめ舎を通して須賀川市民、須賀川を知らない人たちに教えてくれているような気がする。
かもめ舎の雰囲気はご夫婦の空気感に似ている
せわしない日常から遠ざかり、どこか素敵な街へふらりと旅に出ているような気分にさせてくれるかもめ舎。ゆったりとしたかもめ舎の雰囲気は、石井さんご夫婦の間に流れている空気感に似ている。「お写真、(撮っても)いいですか?」とカメラを構えると「えっ、えっと……写真ですか」と恥ずかしそうに俯く幹士さん。隣で時折上手にフォローを入れる明子さんとの掛け合いに、取材で訪れた私たちも思わずほっこりしてしまう。好きな物が似ているというだけあって、お互いの気持ちが常に通じている様子で、まさに「あ、うん」の呼吸だ。「僕、サラリーマンに向いていないんです。というのも、元々漠然と何か店を持ちたいと思っていまして……」と幹士さん。「旦那さんが脱サラする時、喧嘩されなかったんですか?」と恐る恐る明子さんに尋ねると、「しなかったよね」と2人は顔を見合わせて微笑み合う。最後にかもめ舎の今後の展望を聞いた。「うちはおかげ様でリピーター率も高くて、女性のお客様が圧倒的に多いです。今、一番苦労しているのは、店の場所が分かりにくいこと。他県から来てくれるお客様も増えましたが、土地勘がない方は迷ってしまうみたいで辿り着くのに苦労されることがあって……。その点については工夫を重ねていきます。一度来てもらえれば、このカフェの良さは伝わるんじゃないかなと。これからも心も体も元気になれるものを提供していこうと思います」と、ご夫婦は素敵な笑顔で締めくくってくれた。
かもめ舎 北欧ビンテージ&café
営業時間:11:00~17:00 (ラストオーダー 16:00)
住所:福島県須賀川市大町403-1
TEL:0248-94-4766
定休日:水曜日
※臨時休業の際はSNSにてお知らせします
かもめ舎さんからお知らせ
かもめ舎2階の個室は貸しスペースです。ランチ付きのワークショップ開催などにおすすめしております。また、店内から見渡すことができる庭のスペースも貸出ししておりますので、小規模の販売イベントなどにぜひご活用ください。問い合わせはかもめ舎へ。よろしくお願いいたします。